生産者の声
マチルダ生産者

農業法人 野菜くらぶ
後藤宏明さん / 阿部順一さん / 中澤拓実さん / 小島寛美さん

農業法人 野菜くらぶ / 後藤宏明さん / 阿部順一さん / 中澤拓実さん / 小島寛美さん

今回、「生産者の声」に登場していただく方々は、群馬県利根郡昭和村の生産者団体である、「農業法人 野菜くらぶ」に所属している生産者の方々です。
有機農業をする目的で創業し、昭和村からスタートした事業は今年で32周年。初代の創業メンバーの後継者として多くの第二世代も就農しています。株式会社野菜くらぶ営業部販売課の小島寛美さん案内のもと、3名の生産者の畑にお邪魔してきました。
株式会社野菜くらぶ  https://www.yasaiclub.co.jp/yasai/seisansha.html

■生産者が株主になり経営に参画する仕組み

「野菜くらぶに登録いただいている生産者の方々は、農業生産法人23法人を含み、全国で70名です。創業は1992年で3名からスタートした会社です。現在、会社の出資者45名のうち、36名が生産者という構成の法人組織です」と小島さん。

まずは、事務所にて現在の生産状況や新規取り組みについてお話を伺います。
「弊社では、土地の標高差を利用したり、地域の気候にあわせて、適地適作の栽培を心がけています。群馬の高原では4月上旬からほうれん草、レタスをはじめ約40品目を12月下旬まで生産しています。それ以外に夏秋は青森、秋冬の時期は静岡で、レタス、トマトなど栽培をすることで周年出荷が可能となりました。多品目の周年出荷、安定供給ができる体制を構築中です。
この昭和村のエリアでは『朝どれレタス』が有名で、早朝2~4時から収穫したものが、首都圏エリアのスーパーに朝の開店と同時に陳列され、新鮮なレタスが供給されております。」(小島さん)

宅配業者や外食業者等の契約栽培を行うことによって、市況の影響を受けず、安定した価格で生産計画を立てられるのが、野菜くらぶに参画する最大のメリット。このスキームによって、就農に対するハードルが下がることは間違いありません。

「そうですね、次世代に繋いでいくためにも、農業の若手後継者を育てるべく、新規就農支援制度として、独立支援プログラムを設けて研修も行っています。2001年に受け入れを開始し、現在までに21名の研修生をサポートし、14名の新規就農者を輩出しています。栽培地の確保から、農業機械の手配などもネットワークを通じて支援をしています」(小島さん)

事務所でお話しを伺う様子

「新規就農する際には、トラクターをはじめ初期投資が必要になりますよね。そこをサポートしてもらえるのは大きいですね。栽培品目の種の購入は本部で行われることはあるんでしょうか?」と、同席していた高田種苗株式会社( https://takadaseed.com/ )代表の高田明さん。
「栽培品目の調整を行い生産管理は行いますが、種の仕入れの部分は、各生産者の方から行ってもらいます。本部で一括購入をすることは基本していないです」(小島さん)

「最近の動きとしては、レストランチェーンがキャベツ品種などを指定して全国の農家さんに栽培契約をし、常に同じ品種の仕入れができる仕組みを作り始めています。野菜品種が独自のブランドとして確立される流れがきていますね」(高田さん)

阿部さんと小島さん、キャベツ栽培の様子

生産者の収穫後の野菜は、集出荷施設で管理。完備している冷蔵庫で、キャベツは一晩、レタスは真空冷却器で品温を4℃まで下げて冷蔵庫に予冷保管されます。「大晦日と元日以外の363日は事務局が稼働しています」(小島さん)

■キャベツ栽培のスペシャリスト、阿部順一さん

昭和村出身の阿部順一さんは、農業を営む両親のもと2代目として、農業高校を出て18歳から携わっています。

キャベツ栽培のスペシャリスト 阿部順一さん

「農業家系ではあったのですが、末っ子だった父は跡継ぎではなかったので、自分で畑を購入してキャベツ栽培を始めたんです。農業が好きだったので」と阿部さん。

阿部さん自身、後を継ぐことを念頭において農業高校へ。卒業後はそのまま実家の手伝いに入ります。そして、今では300反の畑をもち、1反あたり6000株のキャベツの栽培を行うほどに。まさにキャベツ栽培のスペシャリストなのです。
「なんとかしてこのエリアで通年キャベツ栽培ができるよう、思考を巡らせている最中なんです。現状は、どうしても5月だけキャベツ栽培が難しいので、生産性が高いレタスを栽培しています」

息子さんと若手外国人スタッフの計9名で、手元に投光器で灯を照らしながら、手収穫で作業を行う日々。
「キャベツは4時~6時までに収穫をして、冷蔵倉庫へ運びます。冬場は手がかじかむので大変ですね、若者はパワーがあるからいいけど」と笑う、まもなく還暦を迎えるという阿部さんのからだはアスリート並みに引き締まっています。

キャベツ栽培の様子

目の前に広がる圧巻のキャベツ畑から、2種のキャベツをその場でカットしていただき試食体験。甘み、瑞々しさなど、キャベツの個性を面白いほどに感じることができました。

「味の好みはそれぞれだと思います。一般的にはキャベツとひとくくりにされますが、実は、『初恋』など品種ごとに個性があるんです。キャベツを日頃扱っている料理人の方でも、畑で採れたてのキャベツを試食すると皆さんの考えに変化があらわれます」

■夏はレタス栽培、冬は雪山勤務の2業種勤務

株式会社サイエンズ  https://www.instagram.com/scienz.insta/
栽培管理・スノーボードインストラクター 中澤拓実さん

栽培管理・スノーボードインストラクター 中澤拓実さん

株式会社サイエンズの畑では、グリーンオーク、レッドオーク、マルチリーフ、ロメインレタスなどを栽培しています。案内をしていただいた、農業に従事して4年目の中澤拓実さんは現在26歳。名刺にある、スノーボードインストラクターの文字に目を奪われます。
「元々埼玉で生まれ育って、農業系の学科だったこともあり大学卒業後に群馬で就職として農業を選択しました。その際、株式会社サイエンズの求人に、夏は農業で冬はスキー場での勤務も可能という文字がありまして。自分は、スノボをするので冬の雪山を希望して入社しました。この働き方に惹かれたのが大きいです」

株式会社サイエンズの畑と野菜くらぶのみなさん

1日の大まかな流れを教えてください。
「3時に起床、3時30分~朝ミーティングをして4時から収穫開始です。各出荷先の納品時間に間に合うように作業を行います。朝休憩をしたのち、午前作業がスタートするのですが、畑づくり、苗を植えるスタッフなど担当によって異なります。昼休憩を終え、午後は次の日の段ボールなどの準備。夕方ミーティングを経て、18時~19時に終業ですね」

生活はすぐに慣れたのでしょうか。あと、お休みについても伺いたいです。
「はじめは、環境の変化もあり、からだはきつかったですね。でも、もう4年目となり慣れました。お休みは、週休2日制のほかGW、夏休み、年末年始などは業務次第ではありますが、休みが確保できます。ただ、雪山は年末年始が繁忙期なのでそこは振り替えますけど」と笑顔の中澤さん。

農業とインストラクターという2つのライフスタイルを持てる環境は、若者にとっても、かなり魅力があると感じます。人材確保の面でもさまざまな工夫が必要な時代において、自分の特性を生かして正社員として2拠点勤務を可能にしている成功例だと感じました。

■ほうれん草の根の味わいに着目し話題になった、後藤宏明さん

後藤農園  https://www.gotofarm-gunma.com/

ほうれん草栽培歴23年目の後藤宏明さん

ほうれん草栽培歴23年目の後藤さん。大学卒業後、大手警備会社勤務5年を経て、実家の農業へ従事します。
「もともと、こんにゃく、リンゴなどの栽培をしていたのですが、父の代でほうれん草をスタートし、その後全面的にほうれん草へ切り替えを行いました。現在はハウス53棟、1町6反すべてを、ほうれん草のみ栽培しています」

ハウス内の美しいほうれん草をみつつ、話題は、冬に露地栽培する根っこについて。
通常で食す、ほうれん草ではなく、根を食べるために特化して栽培しているとのこと。
ごぼうとも違い、強い甘みが特徴と言われる、ほうれん草の根っこ。栽培のきっかけは何だったんでしょうか。

「それが、数年前にあるTV番組から、ほうれん草の根っこで何かできないか?という問い合わせだったんです。そこで、知り合いのお店に相談に行き、根っこの天ぷらやきんぴらなどを作ってもらったらおいしくて」

その体験をきっかけに、ほうれん草の根っこに着目し、栽培を始めたとのこと。
「露地栽培でしかできません。甘みを出すため、気温の下がる12月ぐらいから、根っこを育てます。ポイントは、根を太くするために、通常の栽培では株間6センチのところ、12センチ確保します。とくに品種は決まっておらず、上の葉の部分は可食部にはなりません。出荷までに12月は90日、越冬すると最長140日ほどです」
この長い時間が、糖度を根に貯蔵していくのでしょう。野菜くらぶでも屈指のほうれん草の面積を栽培している後藤さんは生産量があるからこそ、葉っぱも根っこも供給できるのです。

ほうれん草栽培の様子

ほうれん草の根っこが都内のレストランに流通したきっかけは、ヤマトフードサービスのお声がけから。何がご縁で新しい食文化が生まれるかわからないですね。
「都内の飲食店に産地から納品するというサービスで、ブラジル料理店などが面白がってくれています」と後藤さん。

山々に囲まれた、自然豊かな群馬県利根郡昭和村には、魅力ある生産者が集まっていました。
株式会社野菜くらぶのこれからの活動にもますます期待が高まります。

マチルダでご紹介した生産者の声