東京湾と相模湾に挟まれた三浦半島でつくられる三浦野菜は、多くのレストランシェフに愛されています。
このエリアは、夏は30℃~33℃、冬は最低でも0℃前後と、野菜作りにはたいへん恵まれた環境に置かれています。今回は、神奈川県三浦市で、三浦野菜の生産から流通までを行っている
株式会社三浦ベジタブル
の代表、原泰郎さんにお話を伺いました。
原さんは長きにわたり卸業務を行う、有限会社八百辰の代表でもあります。
株式会社三浦ベジタブルが生産する、100種以上の三浦野菜のリストをみるにつけ、そのラインナップの幅広さ、そして、年間を通じて何かしらの野菜が収穫され続ける、この土地のすごさに驚かされます。
「この地域は、本当に気候に恵まれています。太平洋側の三崎地区、松輪地区は霜が降りることがあっても陽がさすとすぐに溶けていくので、凍るということがありません。年中、野菜を路地栽培できる地域というのはかなり魅力的ですね。今では自社畑として一町(1ヘクタール)、作付けをお願いする契約農家は10町(10ヘクタール)ほどになりました」
そんな、三浦野菜に一心に情熱をそそぐ、原さんの人生を少しご紹介。
横須賀に生まれ、幼少期にこの三浦の地に引っ越します。そして、なんと15歳で畑栽培をスタートすると同時に、野菜の小売販売をスタート。あっという間にスタッフが80名になるほどの盛況ぶりだったそうで。
「親父が野菜に関心があったことも影響してますね。15歳で野菜とともにスタートして、その後は時代の流れで紆余曲折有りましたが、今現在まで一度もやめようと思ったことはありません」
今も、スタッフはグループ全体で80名ほど。その中には、20代、30代の若手スタッフもいるそうです。
「若いスタッフたちは、野菜を使ったメニュー開発なんかも積極的に行っていて、すごく前向きですよ」
三浦は、大根やキャベツは全国でも有数の一大産地として有名で、国指定産地にされています。そして、一反あたりの生産金額は日本一なんです。
三浦野菜の中で、よく耳にするのが「三浦大根」。しかし、原さんに伺って正確な「三浦大根」について知ることができました。
「世の中に出回っているのは、いわゆる『青首大根』です。『三浦大根』というのは、年末年始のときのみ出荷される、ほんとうに収穫時期が限定されている特別な大根なんです。特徴は、めんとりしなくても、どれだけ煮込んでもまったく煮崩れないこと。じつは、多くのみなさんが手にしているのは、三浦野菜の『青首大根』なんですよ」
近年では、スーパーなどではあまり目にすることが少ない外来品種の野菜のイメージもついているようにも。
「20年ほど前から、このエリアで生産量が高いベーシックな野菜栽培のほかに、カラフルな洋野菜の栽培に着手しました。きっかけは、バーニャカウダブームといっても過言ではありません。当時、17年も着任していた農協の組合長が、そのころでは珍しかったバターナッツ、赤ビーツなどの栽培を推進しはじめました。三浦の地は、冬はイタリア野菜のような外来品種が無農薬で育つんです。そんなきっかけから、我々も減農薬や無農薬でさまざまな海外品種の野菜栽培を行うようになりました。結果、レストランのシェフから『次は、●●を育ててほしい』なんて声までいただけるほどになったんです。やはり、依頼されるとやる気がでますよね」
まさに、農協を始め、地域の生産者の方々の先見の明があったということ。
もちろん、三浦海岸が近くにあるので潮風に乗って運ばれてくるミネラルで土の栄養価も高いため、できた野菜の味わいが素晴らしいということも人気になった秘訣でもあります。三浦の土地は、黒土と赤土がありますが、どちらも肥料がほとんどいらないくらい、土の栄養価数値がいいそう。プロのシェフ達が惚れるだけのことはありますね。
続いて、三浦ベジタブルが信頼を置く契約農家さんたちとのお付き合いについてもお話を伺います。
「もうね、親子の代で30年を超えるお付き合いの農家さんもいるんです。弊社は、A品もB品もすべて買い取ります。この品種をこれくらい作付けお願いしますと声をかけ、すべて買い取る仕組みなんです」と、原さん。
この日に訪問したのは、「あやめ雪かぶ」を栽培している、三浦ベジタブルの契約農家でもある、蛭田農園さんの畑。原さんは、定期的に畑に足を運び、野菜の状態をチェックし、コミュニケーションを図ります。
お母さまの代から息子さんへとバトンがつながっています。
「20歳から就業していて、今年で29歳です。他の仕事に就くことはまったく考えていませんでした」とのこと。お子様も3人いて、まさに、農業で生計を立てていくことに不安はない様子。
日本の農業では、後継者不足の話題にこと欠きませんが、三浦半島の生産者さんにおいては、当てはまらないように思います。
最後に、原さんに野菜の力は偉大なんだなと思うエピソードを教えていただきました。
「本当に、野菜のおいしさだけで、料理の価値観が変わります。餃子に三浦の甘玉キャベツを使っていたお店が、シーズンが終わったので、違う品種に変えた途端、『あそこは味が落ちた』なんて、噂がでたほどなんですよ(笑)」
三浦の地を愛し、日々、野菜と果物だけのことを考えているという原さんが、栽培・管理する、三浦野菜にシェフ達が惚れてしまうのはごくごく自然なことだと感じた取材となりました。