東京・大田区の住宅街にピンク色のライトが漏れ光っている場所があります。そこが、「江戸前ハーブ」と名付けたマイクロハーブの生産工場。代表を務める、関西出身の村田好平さんにとって、東京大田区は縁もゆかりもない場所。しかし、マイクロハーブの需要を見込んでチャレンジをする!と決めた瞬間から、様々なご縁を引き寄せ一気に夢を実現させてきています。今回は、決意してから今までの急速な流れについて詳しく伺います。
「この事業を始める前は、淡路島の師匠の元でマイクロハーブを育てていました。」と村田さん。その経験を積んでいる最中で、今後の方向性を考えていたといいます。
「まず、マイクロハーブに対し、圧倒的に都内からの需要が多かったんですね。でも輸送コストもかかることで値があがりますし、鮮度という意味でもより近い環境がいいなと漠然と考えていました。ビニールハウスの栽培は、天候に左右されるという点でも安定供給が難しく、事業としてどのように継続していくかを試行錯誤していたタイミングで、カナダ・トロントで室内に土を持ち込んで栽培しているという情報に出会いました。SNSで情報収集をしていく中、このカナダの方式を東京でいち早く取り入れてみるのはいいのでは?しかも、コロナ渦の真っただ中で、今が逆にチャンスなのでは?と思い、まずは東京へと足を運びました」
そこから今の場所との出会いに繋がるにはある方の助言があったそうですね。
「本当にありがたいことに、三つ星レストランオーナーの方にアドバイスをいただく機会に恵まれまして。思いのたけを話したところ、ひとりでゼロから始めて三ツ星レストランと契約できるようにとにかく早く行動を起こし、1日でも早く利益を生み出しなさいと。背中をおされましたね。そのためには、家賃をとにかく抑える必要があったんです。なので、土地勘のない自分としては、不動産会社にそのまま相談し、片っ端から内見しました。その中で、この場所は、自分の掲げていた3つの条件、ぼろくて、広くて、真四角を満たし、さらには軒下スペースも気に入り、日帰りで淡路島から東京にでてきた3時間の中で即決し、2週間後には上京していました(笑)。2021年6月のことです」
「物件を見つけ、まずはYouTubeとインスタグラムを頼りに、見よう見まねで栽培を始めてみたものの、カナダと日本では手に入る資材が異なるため、2か月くらいは失敗続きでした。このままでは埒が明かないと、カナダの農園に直接メールで連絡をしてみたところ、1時間300ドルで質問を受けてあげるといわれ、Zoomで湿度や温度、ピンクのライトの意味など、疑問点をすべて質問したところ、しっかりと答えを教えてくれましたね。1か月後には、見違えるほどきちんとした生育になったんです」
しかし、日々栽培に注力してるため、営業がまったくできておらず、ついには借金のみが嵩んでしまう結果に。そこでイタリアンでの勤務経験もあり、レストランの仕組みを理解していた村田さんは、ついに行動にでます。
「本当に笑いごとでない状況に追い込まれていたので、レストランのアイドルタイムにシェフを突撃してみようと。人気のレストランもコロナ渦でそんなに忙しくないはず、そしてあえてお客様の足が遠のく台風の日を選びました。そこで、運よく米澤文雄シェフとの出会いに恵まれたんです。米澤シェフは、ざっと話を聞いてくれたあとに、一口食べてその場で『採用』といっていただけて。もう、感謝しかないですね。その後も様々なレストランを紹介いただけるようになり、今に至ります。もちろん、すべての突撃がうまくいったわけではありません。お叱りを受けた経験もあります(苦笑)」
しかし、あっという間に軌道にのり、栽培開始から1年ほどで耐震対応のラックに新式トレイを組み合わせ、自動給水ができるスタイルに移行したという村田さん。とにかくスピードが速いことに驚きます。
さて、気になるこのピンクの光源について教えていただけますか?
「この光は、LEDライトの白から緑を抜いているため、ピンクのカラーになっているんですね。カナダの農場もこの色です。メリットとしては、まず、光合成が最大化されます。そして電力量もさがるので、電気代が下がるんです。さらに、東京の町工場でピンクというインパクトはかなり強烈な印象を残すので、結果的にメリットだらけですね(笑)普通に日本で手に入ります」
「江戸前ハーブ」は独自に設計した有機培養土で栽培しているため、軸が強く、冷蔵庫で保管すると約10日、中には2週間キープできているシェフもいるそうです。
栽培品種のセレクトについてのこだわりについて伺うと、
「レストランにサラダとして完成したものを納品したいという想いでセレクトしています。そのため、現在は14種類をミックスした状態の納品がベース。食感がしっかりしているサラダのベースとなる、ひまわりや大根、そこにアブラナ科、セリ科などを加え、味のバランスを考えています。このサラダをベースにすることで、現場のシェフたちの手助けになれればなと思っているんです。今後は、ハーブミックスのラインナップとして、ねぎなどを主体としたジャパニーズミックスも積極的に展開していきます」とのこと。和食はもちろん、中華でも重宝されそうです。
スプラウトとマイクロハーブの違いについて教えていただけますか。
「種は一緒なんですね。スプラウト→マイクロ→スモール→ベビーリーフとまるで出世魚のようにサイズで呼び名が変わっているんです。その中でもマイクロハーブまでは、肥料が必要ないタームというのが特徴です。その植物がもっているDNAの味がでるといってもいいかもしれません」
「今では、9回の出荷で700kgの生産量が可能なりました。事業拡大にむけ、平和島の地下2F、80坪の物件を借りることが決まっています。地下であれば、より温度も安定しますし、今が20坪なので、生産能力としてはかなり上がります。運営としては、マイクロハーブを平和島に移行し、この場所では、エディブルフラワーの栽培に特化していこうと考えています。最近では、20代の見学が多いんですよ。なんか新しい農業のスタイルという意識をもってくれているのがうれしいですね。日照時間が短いエリアで生産するために、LEDライトで栽培をしていきたい、というスタッフも研修に来ています」
“師匠がやっていないことをやる”という信念で上京した村田さんの農業人生は、まだまだ驚くことが起きそうです。