生産者の声
マチルダ生産者

合同会社信州べじあーん / 創設者 小島誠二さん

創設者 小島誠二さん

今回、「生産者の声」としてご紹介するのは、長野県下高井郡で路地とハウス栽培を行っている、「信州べじあーん」さん。創設者でもあり、生産のすべてを担っている小島誠二さんは、大学時代に将来の独立を視野に入れて就職先を選んできたとのこと。パクチーをはじめ、珍しい中国野菜を栽培している畑を案内していただきながら、様々なお話を伺いました。
HP https://s-vegea-n.co.jp/

■国産としては希少な中国系の野菜を中心に栽培

合同会社信州べじあーんを立ち上げた際は、企業人から、いわゆる脱サラとして農業ビジネスへ舵を切った小島さん。奥様がHP制作をはじめ、会計業務などのバックオフィスを管理、そして、繁忙期には熊本からご両親も収穫の手伝いに来てくださっているそうです。
まずは、印象に残る会社名についてどのようにつけられたのか質問です。

「結構考えましたよ!べジタブルの『べジ』に、顧客満足の想いを込めた『A to Z』の日本語スタイルで『あーん』、さらに、アイデアの『案→あん』も含んでいます。そして、ロゴのスプーンのマークは「あ~ん」と食べるところをイメージしています」とこだわりが満載。

そんな、「べじあーん」の小島さんがアルプス、竜王山、白馬山が見える、絶景のエリアで栽培している野菜は、「油麦菜(ユーマーツァイ)」「パクチー」のほか、「アスパラガスレタス」「紅ヒユナ」など珍しい品種が5~6種類です。

長野県下高井郡の路地とハウス栽培

「今の畑の広さは、路地は2町歩ほど、ハウスはエリアごとに点在し、計12棟です。
一番初めに栽培を始めたのは、パクチーですね。実は、そんなに自分自身が好む野菜ではなかったんですが(笑)。2020年の時点で、まだこのエリアで栽培している人は少なかったんです。国産パクチーは寒冷地でしか生産されておらず、夏になるとパクチーが求められるにも関わらず供給が追いつかない状況があったんです。もちろん、高額になるのを目の当たりにしていたので、ビジネスチャンスとして参入した次第です。現在、パクチーは、路地とハウスとで年間栽培をしています。4年間思考錯誤して、ようやく品種リレーにたどり着きました。8月~3月は柑橘系、4月~7月はスパイスっぽい味の品種に切り替えています。品種ごとの栽培調査をしたことで、やはり気候によって相性のよい品種があるということが分かりました。私の生育の際のこだわりは、主要の肥料です。長野ならではかもしれませんが、キノコ栽培後の培地に酵素を入れたものを砕いたものを使用していますね」

左:パクチー、右:小島誠二さん

■将来の独立を見据えてのキャリア形成

農業ビジネスへの転換ですが、決意はすぐに固まるものなのでしょうか。
「大学時代にすでに、『自分の性格的に会社勤めはあまり向いていないな』と分析をしていたんです。将来の独立を見据え、人・もの・金の流れを学ぶために、まず飲食企業の店長になりました。27歳まで勤め、経験を積んだので次のステップへと野菜の流通企業へ転職しバイヤーに。そこで、様々な人脈を作り上げ、市場についても学びました。32歳で退職し、2020年に起業に至ります。ですが、頭だけの想像での流れではありません。生産者としての業務と向き合うために、ダブルワークを経験しました。金曜の夜に長野へきて、知人の生産者に借りた畑で農業をし、日曜の夜に都内へ戻るという生活を1年間続けたのです。この仕事で、自分はやっていけるという自信をもって就労したので、その後の違和感はまったくありません」

こちらの土地への縁というのはどのような繋がりで?
「私の実家は熊本なので、まったくというほど未知のエリアでした。前職の際にビジネスとして訪問したことで、このエリアは野菜の産地として本当に魅力的だと思い、移住したという感じです。山々に囲まれ、自然に傾斜になっているので水はけも抜群によいですし。
気候的にも、あまり水やりをすることもなく、とくに暑い時期のみ様子をみて農業用水を使うのですが、志賀高原から降りてくる山水のためミネラルも豊富で助かっています。去年は40日間も雨が降らなかったんですが、水不足になることもなく全く栽培には問題なかったですね。そして、気候の良さ、昼夜の寒暖差などの魅力のほかに、長野はキノコがあるため、一年を通して都内への便が走っているので、流通網がよく本当に助かっていますね」

■標高600メートルで栽培する「アスパラガスレタス」に「紅ヒユナ」

小島誠二さんとアスパラガスレタス

「この『アスパラガスレタス』、ふさふさの葉っぱはまったく食べないんです。茎の部分の皮をピーラーでむき、中の軸の部分を食べるんです。皮の下から現れる翡翠色の茎は、クセのない味わいで、中国の方はキャベツのように日常で使うんですよ。6月から関東では暑さが要因で作れないので、私のところに中国系のお店から集中的にオーダーが入りますね。このエリアでは、3月末~7月15日くらいまで、栽培を行っています。この品種の種は国内で販売されていますが、まだまだ珍しいですし、育てやすいわけではないのであまり知られていないんだと思います」

左:小島誠二さん、右:紅ヒユナ

「そして、こちらが『紅ヒユナ』です。別名、『ジャワほうれん草』とも言われ、まさに熱帯アジア地方原産の、夏に収穫できるほうれん草なんです。これは、中国から種を輸入してもらい、育てています。この『紅ヒユナ』は、国内ではベトナムの方の消費がすごいんですね。今では、豊洲市場のほかに中国系スーパー、上海系の中華レストランからのオーダーが入っています。この他には、細いセロリ「キンサイ」も中国の種から栽培を始めていこうと思っています」

■風が通る盆地で始めた農業は出会いにも恵まれた

小島誠二さん

生産者としての生活になり4年、小島さんの1日の流れを教えてください。
「朝2時~朝日が昇る5時半までが収穫ですね。すべて手作業です。出荷が終わるのがだいたい、昼過ぎの14時。就寝は19時か20時ですね。市場にあわせた生活になっています。特に夏の時期は毎日収穫があるので、なかなか休みは取れないですね。当日収穫したものを出荷したいという想いがあるので。一応、月曜は早朝出荷作業のみというスタイルで過ごしています。冬の時期はさすがに、週に1、2回は休みを取っています」

事業の拡大は考えているのでしょうか。
「まだ始めて4年ですので、現状をキープするということが先決ですね。幸いにも、海外での農業経験者の20代の若者が畑を一緒に手伝ってくれるようになりました。耕地としては、希望すれば手配をしていただけるような状況でもあります。まずは、営業先へご迷惑をかけないように、もちろん新しい野菜の品種への挑戦は続けていきたいと思っています」

軸がぶれることが無さそうな、小島さんのこの先のチャレンジにも期待が高まります。

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