株式会社FENNEL(フェンネル)の前編としてお届けしたのが、代表取締役社長である森田 剛史さんのインタビュー。
マチルダ生産者 株式会社FENNEL 代表取締役社長 森田 剛史さん
今回、後編としてご登場いただくのは、取締役副社長の木村 彰宏さんです。木村さんは、とても手のかかる栽培方法が特徴のヨーロッパ野菜、「タルティーボ」を積極的に栽培しています。本場イタリアの生産者の声を直接聴いたことで、木村さんにも火が付いたというお話とともに、出荷までの作業を具体的に見せていただきました。
株式会社FENNEL
https://fennel-saitama.co.jp/
さいたま市で農業を営む、5代目の木村さん。「親父の時代はきゅうりや切り花をメインでやっていました」とのこと。今では、株式会社FENNELの副社長としての業務とともに、3haの畑で30品目以上の野菜を栽培しています。
まずは、今回メインでご紹介する「タルティーボ」について。
「タルティーボ」とは、イタリアのトレビーゾ地方で栽培される赤いチコリの一種で、正式名称は「ラディッキオ・ロッサ・デ・トレビーゾ・タルティーボ」です。苦みはあまり強くなく、甘みの方が引き立つ野菜で、ローストしてメインの付け合わせなどで重宝され、早生としてクリスマス時期にも引き合いが多いのだそう。栽培方法がとても特徴的なのですが、木村さんはその工程をほぼお一人でこなしているんだとか。
「タルティーボの種まきは7月、8月におこないます。そして植え込み開始は9月ごろ。
草丈が30センチを超え、葉枚数が充実したら収穫時期です。2月中には8割収穫は終わりますね。この野菜に関しては、他のスタッフに任せることなく、すべて自分で出荷作業までおこなっているんです」
そこまでの想いに至った経緯を伺うと、「ベネチアの近くで本場のタルティーボ栽培を見学したんですね。そこで出会った、イタリアの生産者が本当にカッコよくて。自分が生産した野菜に、街の名前をつけていて、“世界一おいしい野菜だ”と自信満々に語っていて、すごい魅了されました。それで帰国後に生産へ舵を切ったんです。もし、本場で生産者と出会っていなかったら、この手間のかかる野菜にはきっと手を出さなかったですね(笑)」
「せっかくなので、出荷に至るまでのすべての工程を見てください」と木村さん。
畑には、収穫前のタルティーボが。スコップで根本から株を掘り起こし、その後、水の中で漬けて成長させる軟白処理を行い、成長した新芽の部分のみを出荷する流れとのこと。具体的に作業をしながら説明を受けます。
「まずは、根っこごと株を掘り起こします。根っこがないとこの先の作業で水を吸ってくれないので、必ず必要です。今日は、スコップですが、本格的な収穫の時期は掘り起こすトラクターで作業を行います」
掘り起こされたタルティーボは、ハウスの中で「軟白処理」(日光を遮断し柔らかく成長させる)対応に進みます。
「ハウス内での軟白処理は、1週間~10日ほど行います。漬け込む水は、井戸水を使用します。2日~3日に一度、水をかけ流しながら根腐りをしないようにチェックしています」
無事に軟白処理の結果、新芽が育ったところで、周囲の葉のトリミング作業へと移行。
「新芽以外の成長しきっている葉の部分はすべて捨ててしまいます。太陽があたっていた部分は苦いので。収穫時よりもかなり小さくなるのが特徴です。そして茎の部分は、ナイフでひとつずつ丁寧にカットし、鉛筆を削ったような形に処理します」
最後に井戸水できれいに洗い、出荷の状態へ。
「うちの井戸水は、13~15℃の安定した温度で、夏は冷たく感じ、冬は暖かく感じますね。ハウスすべてに配管しています。この工程もすべてイタリアと同じです。内側の土の汚れを落とすとともに、緑がかった葉は苦みがあるので一つずつチェックします。根っこの株の大きさで、サイズが確定していきますね」
太陽にあたると緑っぽくなり、苦み成分がでてくるとのことも新しい発見です。
つやつやに仕上がったタルティーボを試食したところ、「甘い」「フルーティ」「苦くない」といったシンプルの中に驚きが詰まったワードが、それぞれからあがりました。
「現状、かなり人気をいただいていまして、毎日収穫し、毎日出荷しています。個々の成長速度が異なるため、軟白処理の際に、5日で成長する株もあれば、2週間かかる株もあります。一番大事なのは、露地の際にしっかり株を育てるということですね」
「もともとは、イタリア野菜に注目したところから始まりましたが、結果“ヨーロッパ野菜”と括りを大きく命名したことで、幅が広がってきているのがとてもよかったです」と、お話いただきながら、株式会社FENNELの他のヨーロッパ野菜の畑を見学させてくださいました。
「“カリフローレ”というスティック状のカリフラワーは、日本のトキタ種苗が品種改良したもの。メインとなるのは茎の部分で、生でも加熱しても甘みがあり、とてもおいしい野菜です。そして、イタリア語で黒キャベツを意味する“カーボロネロ”。こちらは、ケールの仲間で、寒さにより皺ができることで、葉が丸まり、甘みと旨みが強くなるそう。寒いながらも雪が少ないさいたまエリアだからこそ、おいしく栽培できるのです」
そして、このエリアならではの活動ではないでしょうか。株式会社FENNELでは、毎年、小中学校の5校ほどに植え付け、座学、収穫といった講義を行い、生徒は給食でヨーロッパ野菜を食しているといいます。講義は人気で、すでに4年目に突入とのこと。
小学生が、ケールの炒飯などを食べていると知り驚きました。
さらに、株式会社FENNELの生産者の方々が栽培した野菜を一般の方が食べられる場所があるのでご紹介します。
「ヨロ研カフェ」
「ヨロ研カフェ 美園」
こちらは、さいたまヨーロッパ野菜研究会をともに立ち上げた飲食店経営者の方のお店。こんなに珍しい野菜をふんだんに味わえるお店はなかなか見つからないと思いますので、ぜひお店のサイトをチェックしてみてください。
太く短く、加熱するとトロトロになる「なべちゃんゴールド」という品種を栽培している木村さん。そもそもの始まりは、「段ボールに入るネギを」とのクライアントの依頼から、土寄せをしない「なべちゃんゴールド」の栽培をはじめたそうです。
「土寄せをしていないので、簡単に手で抜けるんですよ」と木村さん。
「今では、父と一緒にネギの栽培をしています。自分が野菜を本格的に始めたことで、花に力をいれていた父が野菜の栽培もはじめたんですよ(笑)」
野菜の品種名と販売名は必ずしも一致していなくてもよいため、一般には「なべちゃんネギ」として販売されることが多い品種のネギを、木村さんは「アヒージョネギ」と命名。イオンの売り場やヨロ研カフェなどに並べているとのことです。熱々のオリーブオイルでとろとろになったネギのおいしさが伝わってくるようなネーミング。センス抜群です。
「野菜の名前ってほんとうに大切だと思います。お客様が手にする第一歩としてもそうですし、調理への橋渡しとなる名前だとインパクトも強いですし。ただ、そこには必ず、味は伴わないといけませんね」
さいたまヨーロッパ野菜研究会が発足したのは、2013年。紆余曲折があったことは想像に難くないですが、12年もの間、様々な品種に向き合い、土地や栽培方法などの相性を見極めながら、株式会社FENNELとして活動を続ける生産者の方々の丁寧で熱い思いに触れることができたインタビューでした。